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女性医師たちの歩み

花の雨 (自選句によせて)

野崎 京子

みどり児の笑みて眠るや花の雨
爽やかや乳足りし児の喃語かな

昔、子育て真っ最中の時、日曜日の運動会が雨で延期になってウイークデイになったことがある。勤務を休めず、行ってやれなかった。「仕事と子供とどっちが大事なの?」と子供達に叱られた。最近は四人の子育てや親の介護も終わり、自分の仕事に没頭出来る筈だが、今度は孫守に悩まされている。とは言え、嬰児の無心の寝顔をみていると穏やかな幸せを感じる。

落ち葉踏み学舎の道を乳母車
カタカタと石鹸鳴らし春の夜

さて、40年以上前、長男が赤ん坊の頃、日曜日には親子三人でよく散歩をした。夫23歳、就職2年目、私30歳、大学病院での無給の医師。京都大学の理学部の北側の裏門近く、学生下宿のようなアパートに親子三人で暮らしていた。トイレと台所は共同、風呂は無かった。超貧乏で電話も洗濯機も無いような生活だった。でも理学部の学舎の真ん中の紅葉の道を乳母車を押して散歩をしたり、毎晩、親子三人での銭湯通いはそれなりに楽しくもあった。風呂上りに飲むフルーツ牛乳のおいしかったこと。

カヌー漕ぐ掌硬し夾竹桃
初漕を終えて焚き火に夢語る

それより以前、私が京都大学医学部の学生の時、縁あってカヌーを始め、全学のクラブの創設にもかかわった。たまたま東京オリンピックの強化選手となり、勉強はそっちのけでトレーニングとアルバイトに明け暮れた。女医の先輩に、「もっとしっかり勉強しないとあとで後悔するよ」と忠告されたものだ。

朗読を聴いてやりつつ葱きざむ
母老いて昔語りや今日の雪

京都大学附属病院勤務のあと、北野病院・国立京都病院・大阪赤十字病院・住友病院に麻酔科常勤医として約30年勤めた。子育て、故郷鎌倉から母を引き取って介護をしながらの仕事は何とか続けてきたというだけだったかもしれない。現在は心療内科の開業医として10年余たった。今度こそは後悔のない仕事をしていきたいと願う日々である。

2009-2013 Osaka Medical Women’s Association.