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女性医師たちの歩み

心のトゲ

八木 由奈

この度、ご縁を頂き、歴史ある貴会のお仕事に微力ながら参加させていただくことができ、大変な光栄を感じております。

昨今、ワークライフバランス、働き方改革等、女性と仕事を取り巻く環境はずいぶん変わりました。女性のみならず、男性も、育児と仕事、趣味と仕事、介護と仕事等、両者のバランスを取りながら働くことが当たり前になりつつあります。私は平成5年卒ですが、自分の学生時代と比べてもずいぶん世の中が変わったなと、時の流れの速さにため息をついてしまう今日この頃です。

「ボクは医師として100%頑張る。だからあなたは100%家事育児を頑張ってほしい。」開業医だった父に憧れて医学部に入学、そして卒業が間近になった平成5年のある日、私が当時おつきあいしていた男子医学生に言われた言葉です。6年間、勉強もクラブも共に頑張ってきたと思っていた私は、彼のあまりにも意外な言葉に「へ!?」と声にならない声で返事するのがやっとでした。

「出産育児は理解できるとしても何で私は家事なん?」と彼に聞くと、「医師の仕事50%、家事育児50%では、どちらも全力じゃない。中途半端になる。医師の仕事はそんなに甘くない。家事が中途半端になる。子供が可哀そう。それで良いと思う?」「・・・・・・・。」何か違う、そう思いながら当時の私はまったく反論できませんでした。しばらくして、私たちは別々の道を歩むことになりました。

卒業後、小児科医、母親業、妻業、嫁業などのいくつもの仕事を同時進行で行いながらも、あの時の言葉がトゲのように心の奥に刺さったままでした。昭和の時代に言われていた母性神話・3歳児神話は、科学的根拠に欠けた男性目線の価値観のひとつに過ぎませんが、社会へ出てみると社会全般にそれらの刷り込みがいかに蔓延しているか、何度も痛感させられました。

ですが、世の中には追い風が吹き始めておりました。非正規雇用者の増大等から、女性が結婚、出産後も働き続けることはだんだん当たり前になりました。また、核家族化、少子高齢化が進み、男性も、育児や介護と仕事のバランスを取りながら働かなくてはいけなくなりました。何より私が勇気づけられたのは、医療の現場で、堂々とそれぞれの道を歩んでおられる先輩女性医師の方々の存在でした。

今、あの時刺さった心のトゲはほとんど抜けつつあります。自分の経験から、働くお母さんや後輩の女性医師に何かお役に立てるアドバイスができればと思っております。会員の皆様、ご指導の程、どうぞよろしくお願いいたします。

2019年9月

2009-2013 Osaka Medical Women’s Association.